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鶯谷萩の湯 | 東京最高との呼び声高い名湯

10月下旬、雨の降る木曜日の夜。残業で少々遅くなってしまい、また冷たい雨が降り続く日で暖房の効きも悪く体が冷え、体力を失ってしまった。これは銭湯、できればサウナで回復させなければならない。

 日々風呂とサウナのことを考えている私は、通勤電車で同好の士によるブログを見ながら入浴気分を味わっている。私ほどの好事家となれば脳内再生だけである程度のリラクゼーションが得られる。文字情報があればなおさらだ。そんな風呂好きの間では最近リニューアルした鶯谷萩の湯が人気となっている。駅からも程近い。帰り道に途中下車して寄ることにする。

 鶯谷駅北口を出て、道路を渡り、左折したらすぐに見えてきた。噂には聞いていたが、銭湯のようには見えない建物だ。しかし一階にはコインランドリーがあり、確かな銭湯らしさが感じられる。きれいな階段を二階へ上がると、下駄箱が並ぶ。下駄箱の空きの少なさから混雑が感じられた。平日の午後9時前、銭湯としてはゴールデンタイムと言えるのだろうか。その向こうには券売機が置いている。予定をせずにやってきたものなので、タオルは持っていない。またサウナは本日のマストでもあるので譲れない。萩の湯の最高級全部入りコースとも言える、タオルサウナセットを券売機でオーダーした。スーパー銭湯ではサウナも料金の一部になっているところがほとんどだが、萩の湯のようなコンサバティブな銭湯ではサウナは別料金だ。

 チケットを番台、もといカウンターへ渡すと、なんと貸しタオルを3枚も渡された。フェイスタオル、バスタオル、ナイロンタオルの3枚。レンタルではあるが、なんと豪華なタオルセットだろう。私はナイロンタオルもバスタオルも使う習慣がないのだが、今夜はバスタオルでゆったりとした湯上がりを楽しむことにしよう。また、サウナ料金を支払った印として青い番号札を渡された。さしずめ萩の湯におけるVVIPを示すパスと言えるだろう。

 3階の男湯へと階段を上る。ロッカールームは標準的な60cm四方程度のロッカーと、縦が100cm程度のものがある。スーツでバッグまであるので縦長のものを選択したが、残念ながら上着をかけるとロッカーの底に裾が接触してしまう。スペースの都合からスーツやコートはきれいに折りたたまなければならない。

 レンタルタオルの中からフェイスタオルをチョイスし、おもむろに浴室へ向かう。ドアを開けると、既に30人程の入浴客が。修学旅行を彷彿とさせる人数だ。多っ!

 まずは入り口近くにある立ちシャワーで軽く体を流し、洗い場(体を洗う場所)へ向かう。かなりの清潔感、イスや洗面器もピカピカだ。おもむろにシャワーの蛇口をひねる。これはよい。シャワーのお湯加減、お湯の出方ひとつで銭湯序盤の快適さは決まる。お湯が多ければ良いというものではない。どれだけ気持ちよく頭皮に、体にお湯が落ちて来てくれるかが勝負と言える。その点でこの萩の湯のシャワーは満点だ。一本ずつの水柱が太く、切れ目なく頭皮に降り注ぐ。理想に近いシャワーヘッドと湯量だ。備え付けのシャンプーで髪を洗う。私は備え付けを利用する主義だ。もちろん持ち込みを否定はしないが、幸運にして備え付けのもので今まで不具合を起こしたことがない。シャンプーは特に印象に残らなかった。続けて体を洗う。私は体を洗うのにタオルを使わない。手のひらに石鹸を取り、それを指先で泡立ててから身体中を洗う。

 身体中を洗い終えたところで、浴室内を見て回る。私はサウナに入ることを第一の楽しみにしているのでサウナの後に水風呂、外気浴と滞りなく楽しみたいのでこの習慣は外せない。まずは外風呂。大きくはない、大人10人程度でいっぱいになる量だが、屋根が一部開放されていて空が見える。その日は雨が降っていたので少し降り込んでいるがそれも風情と言えるだろう。
 内風呂を見て回る。洗い場の近くにはオーソドックスな浅めのお湯、と思いきや炭酸泉。通路をはさんでジェットバスと色のついたお湯が入っている熱湯(あつ湯)。そして水風呂。お湯だけで3種類が楽しめる。

 最大の目的であるサウナへ向かう。入るとすでに男ばかりが15人程度、ひしめくように並んでいる。これは凄まじい光景だ。水風呂は推定5人程度でいっぱいになるのでこの人数が全て水風呂へ向かうことは不可能だと一抹の不安を抱きながらもサウナ最上段で1周目をスタートさせる。テレビは秘密のケンミンショーを放送していた。もう何年も見ていなかったがつまらなくそしてたまらなく面白い。脳が休まる。どこかで食べているという帯のようなうどんの話題をしていた。うまそうだ。腹も減ってきた。
 約10分経過、ちょうどよく全身に汗をかいたところで水風呂へ。水風呂の縁においてある手桶で足先、手先から掛水をする。ここはエレガントさが問われる仕草だ。油断はできない。銭湯そしてサウナを愛する者としては、ほかの人に水しぶきをかけるようなことがあってはならない。片膝をつくポーズで静かに、しかしすばやく掛水を行う。バシャバシャと水風呂表面にしぶきをあげる、後ろを通る人にしずくを飛ばすなど言語道断である。掛水で十分に汗を流したら右足から水風呂へ入る。なぜ右足か。心臓から遠い方、と決めているわけではなく私は自転車と同じでなぜか風呂へ右足からしか入ることができない。それに気がついた時に左足から入る練習をしてみたが無理だった。
 水風呂は極楽である。水風呂のためにサウナに入るといっても過言ではない。ここ萩の湯の水風呂は決して大きくはないが、心地よい温度とちょうどよい深さが十分に体を冷却してくれる。
 その後は外湯へ。ベンチを手桶の湯でひと流しし、腰をかける。グァー、腹の底から声が出る。1周目ですでに極楽である。3分ほど外の寒さを楽しんだ後、外湯に入る。適度に冷えた体に湯の温かさがたまらん。そして首から上だけが寒空にさらされているというのも、秋の外湯の醍醐味と言えるだろう。
 その後体を拭き、水を飲んで2周目のサウナへ。ケンミンショーをまた見る。サウナにはなぜか一定確率で体をパシパシと叩いて汗を飛ばす不逞な輩がいる。同好の士ゆえにそれほど厳しいことを言いたくはないが、その行為に何の意味があるというのだろう。周りに汗を飛ばして不愉快にさせる以外の結果があるならばぜひ教えていただきたい。
 2周目のサウナの後は、1周目と汗の性質が若干異なっていることが殆どだ。1周目はいくばくか粘り気があり、2周目はサラサラとした水玉状の汗をかく。エレガントに掛水をして、水風呂を楽しむ。そしてまた外気浴へ。
 2周目の後には、すべての内湯に入ることにしている。正しくは、最終回以前に入るようにしている。最終回はシャワーできれいに体を流した後に外気浴で乾かしてから帰ってくるのが私の流儀だからだ。
 炭酸の湯は、ぬるく、浅い。私好みだ。若い頃は熱い湯を好んだが、最近はもっぱらぬるめの湯に浅く浸かるのが気に入っている。壁に他の銭湯のイラストが貼ってある。洗湯イラストレーター enya honamiさん(@enyahonami)による解説だ。残念ながらどこの銭湯であったかを失念してしまった。これは行きまくるしかあるまい。
 あつ湯は、私には熱すぎた。ひざ下のみ一度つかってすぐに出た。オーソドックスな湯、ジェットバスになっているところも良いが、ここの湯で圧倒的に好みなのは外湯だ。もう一度外湯へ戻る事にする。
 3周目のサウナに突入する。まだケンミンショーをやっているので1時間は経っていないようだ。サウナは入る時間を決めてない。感覚で決めている。その感覚とは、水風呂に入るのが気持ち良くなるだろうな、と思うところがちょうど良い。なかなかその感覚に至らない場合は体調不良が疑われるが、これまでのサウナ歴では一度もない。3周目の水風呂、外気浴、外風呂の後に入り口近くの立ちシャワーで湯を流す。その後また外湯へ向かう。その時には入らない。外気で体を冷やすことが目的だ。十分に乾いた体には、タオルはいらない。しっかりと冷えるので汗もかかない。しかしながら体は内部から暖かい。サウナでしか得られない健康状態がここにある。



 体がすっかりと乾いたら、脱衣場で受付でもらったバスタオルにくるまる。乾いた肌に綿の感触が心地よい。体が濡れていてはこうはいかない。しばらく楽しんだ後は、スーツを再びまとい、帰路につく。一度脱いだ服を着るのは気持ちが悪いという向きもあるだろう。しかし、今はもう1日働けるほどに回復している。剥いだ服を着る程度の事など、些事に過ぎないのだ。


 さて、萩の湯の食堂もなかなかのものだと聞き及んでいる。しかし今日は帰ることにする。寝不足になってしまったのではサウナに入った価値が薄れるというもの。この元気をそのまま睡眠へ持ち込み、明日金曜日を全開で働くことにする。


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